GORCH BROTHERS PRESENTS『飛龍伝』
*玉置玲央と黒木華。
全共闘40万人を束ねる新しい委員長に、一人の女が指名された。
彼女の名は「神林美智子」。
学生運動が燃え上がる中、彼女は最終決戦にむけ、敵対する第四機動隊隊長「山崎一平」のもとへ送り込まれる。
首謀者は、全共闘の作戦参謀「桂木順一郎」。
自らが愛する一人の女を、スパイとして敵地へ向かわせたのだ。激しさを増していく、安保闘争。
敵対すべき二人は、いつしか深く愛し合うようになっていた。
許されぬ愛、揺れ動く三人の心。
1970年11月26日、決戦の時がやってくる―(公演フライヤーより)
反・現代口語演劇の旗手、つかこうへいに挑む
先頃、第57回岸田國士戯曲賞の最終候補が発表され、中屋敷法仁『無差別』がノミネートされた。
昨今、中屋敷はむしろ演出家としての仕事が多い。*1ミザンスしっかり・発声はっきりなどといったことにより舞台の虚構性を高める演出方法は、「反・現代口語演劇」と呼ばれ、平田オリザの提唱した「現代口語演劇」チルドレンの跋扈するゼロ年代の流れを無視するかのように走ってきた。
そして、10年代に入ってからだろうか。観客数の年齢層が徐々に高まったせいもあるのか、中屋敷法仁とつかこうへいとの類似性を指摘する声が聞かれるようになった。*2
その指摘は、中屋敷法仁率いる柿喰う客の主たる観客層である20代にとっては、ピンと来ないものだったのかもしれない。少なくとも私はそのひとりだ(残念なことに、つかこうへい演出を観たことがない)。噂に聞くのは、速射砲のような台詞と、「口立て」と呼ばれる演出。なるほど、中屋敷が取る手法にどこか似ているのかもしれない。
観劇後にインタビュー記事をいくつか当たってみたが、「つかさんの作品だけは演出しないだろうと思っていた」という言葉が目についた。口立てという手法により、俳優に染み込ませる演出の結果として残った戯曲は、「演出のしようのない、完成された作品」と言う。
ならば、演出家・中屋敷法仁はいかにつか戯曲に立ち向かい、どのように料理して見せたのか。
〝革命〟を叫ぶことについて
つかこうへいをやる。ではなぜ『飛龍伝』なのか。
『飛龍伝』は全共闘の話だ。若い俳優が躍動するに申し分のない設定であることにひとつの納得はある。*3しかし、40年前の話を現代人との共感を呼ぶ話として魅せることは簡単なことではない。*4私の考えでは、全共闘の時代を描いたフィクションとして後世に残るのは、結局、村上春樹『ノルウェイの森』しか無い気がしているくらいだ。
また、現代社会の問題としても、2012年反原発デモの成果を見ても、日本にとって〝革命〟という言葉が持つ力の無さを感じさせられた時期でもある。
その革命の意味についても、気にせざるを得なかった。
熱波、熱波、熱波
私は舞台の熱に浮かされ溺れた。それは、満員御礼立見客ありの本多劇場が手伝っただけではなかった。
第一場。台詞を聞き取れる者は残念ながら少ないだろう。速射砲のように何か音が発される。その瞬間、私は、中屋敷演出のリズムで始まっているのだと気づき、耳を必死にそばだてる。と同時に、その音の速射に無防備だ。音を浴び続けるほかない。恐らく、観客は神林美智子(黒木華)または桂木順一郎(間宮祥太朗)が現れるまでニュアンスを把握することに必死だったことだろう。*5
ある意味で、そこでひとつの革命があった。つかこうへいの亡き世に、公に新たな演出が生まれたのだ。*6
熱を伝えてくれたのは山崎一平(玉置玲央)と神林美智子だ。
ふたりのシーンは、どこまでも届くような気がした。山崎⇒神林の愛情はこじれにこじれながら真っ直ぐに伝わったし、神林⇒山崎の愛情はこじれにこじれながら真っ直ぐであったと思いたいものであった。それ以上の言葉をあの舞台に尽くすことは嘘になると思う(逃げと言われようとも構わない)。
それこそが、70年安保が現前に浮かび上がり、現代が抱える問題ともふわりと繋がるような瞬間を生んだのだと思う。その時代時代で様々なテーマを抱え、多くの若手俳優の登竜門として君臨した『飛龍伝』が、今後のレパートリーとして語り継ぐための術を、彼らは魅せてくれたのだと思う。
革命は始まったばかり
つかこうへいという演出寄りの戯曲をあくまでテキストとして照合した中屋敷法仁。70年安保という40年前のことを現前の問題として演じた、玉置玲央、黒木華、間宮祥太觔ほか俳優陣。
これは、つかこうへい戯曲を古典として甦らせた最初の作品だ。
そのことを誇りに、若い俳優たちは各所で戦い続けることだろう。*7私は、駆け出す彼らを黙って見送ることが精一杯だった。そうだ、二度と再演のないだろうこの舞台を本当の伝説へと高めていくのは、これからの作業だ。せめて、私はこの舞台を忘れず語り続けようと思う。
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*1:2012年9月上演の『無差別』は、2011年1月『愉快犯』以来の新作長篇だった。
*2:同時に、(良くも悪くも)様式美という意味で歌舞伎的という言い方をしていた者もいた。
*3:今回の俳優陣の平均年齢は約25歳とのこと。
*4:これも伝聞情報ではあるが、つかは、その時々で戯曲の設定を変えることも厭わなかったようである。例えば、2010年のLAST PRINCEは沖縄問題等も取り上げていたようだ。
*5:つかこうへい演出との違いに、途中退出した観客もいたと聞く。
*6:今回、筧利夫・富田靖子版と、筧利夫・広末涼子版と戯曲は違うことを確認し、、恐らく初演版で演じられただろうと思われる。
*7:千秋楽の直前、玉置玲央が〝革命前夜〟という言葉をツイートしたのはそのような思いだったろうと思う。