『007 スカイフォール』
*今回は、ガンバレル・シークエンスをモデルとしたデザイン。その意味は……?
MI6のエージェントのジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、NATOの諜報部員の情報が記録されているハードドライブを強奪した敵のアジトを特定し、トルコのイスタンブールに降り立つ。その組織をあと少しのところまで追い詰めるも、同僚のロンソンが傷を負ってしまう。上司のM(ジュディ・デンチ)からは、敵の追跡を最優先にとの指令が入り、後から駆け付けたアシスタントエージェントのイヴ(ナオミ・ハリス)と共に、敵を追跡するボンドだったが……。(シネマトゥディより)
記念ずくめの年に
2012年。007シリーズ50周年は実に華々しいものだった。
昨年2月に「バリや中国などの海外ロケが予定されていたが、予算削減のために結局は大部分が英国内で撮影される」というニュース*1を見たときには、50周年なのに大丈夫かいな、と思ったのだが。
ロンドンオリンピック開幕式では、ご存じのとおり、ジェームズ・ボンド扮するダニエル・クレイグがエリザベス女王のエスコートをし、ヘリコプターからのパラシュートダイブを披露した。あのとき掛かった「007のテーマ」に興奮を覚えた方も多いのではないだろうか。まさにオリンピックでしか成し得ず、ファンならば一度は見たかった共演だったと思う。
2012年。6月のエリザベス女王在位60周年、7・8月のオリンピックと続いたロンドンの熱狂は、10月の『007 スカイフォール』公開で締められることとなったわけだ。それも、シリーズ最高傑作の作品によって。
ポスト冷戦時代のボンド
ダニエル・クレイグが6代目ジェームズ・ボンドとなった当初は、金髪・青眼のボンドに疑義の声が多く聞かれた。私見で言えば、MI-6所属と言うよりも、KGB所属のような気さえした。
冷戦を知らないこどもたちにとって、ピアース・ブロスナンこそ007そのものだった。紳士的でユーモアも兼ね備える、それはそれは素敵な兄貴だったから。興行的にも中興の祖であり、〝ショーン・コネリー以来最高〟と賞された彼からの交代*2だ、非難されるのも無理もなかった。
しかし、『カジノ・ロワイヤル』によって、その評価は一転する。冷徹にも見えるダニエル・クレイグの青眼は、観る者の何かを射貫いたのだ。それは原作小説の印象に近いとも言われ、〝ショーン・コネリー以来最高〟の言葉が、ダニエル・クレイグに与えられた。
今回は、ダニエル・ボンド3作目。シリーズ初の続き物だった『カジノ・ロワイヤル』『慰めの報酬』とは別のストーリーが描かれるという。期待はいやが上にも高まっていた。
スパイは何と戦い、何を守る?
*今回のチェイスシーンも景気よかったッす。
ダニエル・ボンドは好きだ。でも、彼を観ていて笑えるシーンは今までの2作まで記憶にない。マジすぎるボンドは全然嫌いじゃないが、でも、どこかで弛緩は必要なのだ。
その点では、今回はピアース・ボンドに見られたチャーミングさがあり*3、もはや完全無欠になった印象だ。それは、今回のひとつの特徴である、〝老い〟の余裕も影響しているのかもしれない。*4
*おなじみM(ジュディ・デンチ)。しゃんとした老嬢は今回も健在。
そもそも、スパイ映画は冷戦時代にこそ栄えたもので、ポスト冷戦時代になってとんと相手が見えなくなった。
だから、ピアース・ボンドは、旧ソ連の残党となった旧友、英中戦争を画策するメディア王、中東の石油パイプラインを牛耳る石油王の令嬢、北朝鮮に味方するダイヤモンド王など様々な敵を相手にしてきた。それは、バラエティーに富んだストーリーとなったが、一方で、自由奔放なんでもできてしまうジェームズ・ボンドの仕事の流儀が見えにくくなったようにも思うのだ。殺しのライセンスを持った国家公務員スパイって、本当に必要なの?
*ボンドガールその1・イヴ(ナオミ・ハリス)。実は007シリーズおなじみの……?
その疑義から生まれた今回の敵・シルヴァ(ハビエル・バルデム)は、ある意味で007の影だった。ただし、彼は国家を背負わない〝個人〟だ。劇中でMが語ったように、国家が国家を脅かす時代は終わり、個人が国家を脅かす時代が来た。
それは、観ている私たちにも実感としてあり、よりリアルな敵が浮かび上がる。そんな敵に、国家公務員スパイが対峙している。007は確かに生きているのだ。
*ボンドガールその2・セヴリン(ベレニス・マーロウ)。マカオのカジノでお会いしましょう。
そして、光と影が最後に対決する風景、〝スカイフォール〟。
この対決は、これが007シリーズの集大成と言えるものに仕上がっているのは間違いない。これで007シリーズが終わっても、何の後悔もないくらいだ。
*3代目Q(ベン・ウィショー)。小生意気な現代っ子ハッカーを熱演。
今回、ひとつ嬉しかったのは、007シリーズへのオマージュだ。
Qが久々に帰ってきたし、小型ペン爆弾の話*5、今回のボンドカーであるアストンマーチン・DB5の登場シーンなど感涙モノだった。やはり、シリーズ50年の厚みというものがあるなあ、と感慨深い。
*アストンマーチン・DB5。今度は新しいのにも乗ってほしい。
と、ピアース・ボンド以来のにわか007ファンが涙ちょちょ切れながら語ったところで、暑苦しいだけだろう。
最後に一言だけ。あなたは、あのガンバレル・シークエンスを観るまで、スクリーンに釘付けとなる。
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