奈良美智『君や 僕に ちょっと似ている』―2012.8.3


*「White Ghost」がお出迎え
 これだけが2010年の作品で、個展の作品は2011〜12年製作

美術館への散歩

 通院帰りに横浜美術館に寄ってみる。
 奈良美智『君や 僕に ちょっと似ている』開幕以来、行こう行こうと思ってなかなか足が向かなかったが、「しゃっきりせい」(意訳)と天の声があったので、思い立ったが吉日。

奈良さんとの出会いを簡単に

 奈良美智という作家を初めて意識したのは、アサヒ飲料の「フキゲン」のイラストだった。*1おそらく同時期に吉本ばなな『ハードボイルド/ハードラック』*2の表紙を見て、「この感じの絵は見たことあるぞ」「“ナラ・ミチ”っていうのか」って思ったのが本当の始まり。*3
 生の展示を見たのは、青森県弘前市の吉井酒造煉瓦倉庫で開かれた、奈良美智graf『A to Z』(2006年)。倉の中にたくさんの小屋が造られていて、その作品群の情報量に圧倒されたことが印象に残っている。
 個展を見るのは、6年ぶりとなる。

2012.8.3

 初見で気に掛かったところだけ感ずるところをだらだら語ってみます。まったくのネタバレを拒否する方は、ご注意を。

 まず、暗がりの中のブロンズ・白金像群。
 奈良さんの作品で立体物というとFRPが印象的だが、ブロンズ像はFRPとは違った、血の通った重厚感が際だつ。「ノッポのお姉さん」ずうううん。「ルーシー」どおおおん。
 ポップ・アイコンとして膾炙されてきた奈良美智とはまったく違う印象を受ける。下絵を見て初めて「奈良さんだ」と安心するのだけれど、像を見るとまた不安になる。その不安はたとえば「真夜中の巡礼者」というタイトルにも垣間見える気がする。
 その不安な不格好さを僕はうまく愛することができない。鏡の中の肉付きがよすぎる自分を思わせる? そうかもね。

 暗がりを抜けて、「In the Milky Lake」。乳白色の中に目を瞑ったこども。その表情になんとも言えぬ安心を覚える。
 カンヴァスに描かれた作品群は、様々なパステル色の上に乗ったであろう乳白色が印象的で、やさしい。たとえば「Young Mother」の表情は若い頃の母の写真を見るような感じとか。「Cosmic Eyes (未完)」の吸い込まれそうな瞳とか。

 ついつい笑っちゃう作品がある。「ミラーボール盆踊り」、「年貢のおさめどき」、「I know Who Are You」……。ニヤニヤして展示を回るアラサー男子の図はカッコのついたもんじゃない。

 横浜のフライヤーにも採用されている「夜まで待てない」は、妖艶さを覚える。フライヤーで見たときは「怪しい笑顔だな」くらいに思ったのだけれど、本物と対峙したら、なんか吸い取られそうだった……。あー、こういう女子が好きなんだな。

何日間か休憩

 コレクション展は奈良さんだけさらって、美術館内のcafe小倉山の野菜カレー*4でランチ。カフェ内にも新作が数多く展示されている。「HELP」なんて見ると、ちょっとあわあわしちゃうよ。

 というわけで、ひとまず初回は終わり。
 何日間か休憩して、また足を運んで、を何度か繰り返してみて、どういうふう変わるか試そうかなと思っている。近所に美術館がある幸せを噛みしめつつ。


*野菜カレー。そんなに辛くないですよ。

NARA LIFE / ナラ・ライフ 奈良美智の日々

NARA LIFE / ナラ・ライフ 奈良美智の日々

A to Z

A to Z

ハードボイルド/ハードラック (幻冬舎文庫)

ハードボイルド/ハードラック (幻冬舎文庫)

*1:いまググって驚いたのだけれど、あれは彼の作品を模して別の人が描いたものだった。

*2:当時はまだ漢字でした。

*3:“ナラ・ヨシトモ”だって気づいたのは、……いつだっけか?

*4:本展示中の特別メニュー