『自殺サークル』『紀子の食卓』〜ドリパス園子温監督特集

はじめてのそのしおん

 園子温監督の映画のオーディションを受ける夢を見た。何をどうしたとか覚えてないが、なけなしのプライドを持ってかなり必死に臨んでいたことは妙に覚えていて、オーディションの結果を知る直前で目覚ましのアラームが鳴った。
 初めて観る園子温作品に対してそれくらい身構えていたということだろうか、ドリパスの園子温監督特集の数日前のことだった。

 というわけで、読書会のメンバーのお誘いにより、2月3日24時よりオールナイトで二作品鑑賞してきた。ちょっぴりアルコールも入って、若干の寝ぼけ眼で。

理由の見えない徹底の怖さ|『自殺サークル


いつもと変わらない帰宅ラッシュの新宿駅。この日、女子高生54人が手をつないでホームから飛び降りた。同じ頃病院では看護婦の投身自殺が起こり、黒田刑事(石橋凌)は事件性を疑う。警察には、自殺者に関係したインターネットのサイトについてタレこみが入っていた。2日後、学校の屋上から高校生が集団で飛び降りる事件が起こる。(ドリパスより)

 初っ端からヴィヴィッドな血飛沫で完全に目が覚めた。
 中央線はまだ旧型の201系が現役で、あのくすんだバーミリオンオレンジの車体が、血に染まっていくのが妙にしっくり来て、それも物凄く不快だった。
 全く情報を仕入れないでの鑑賞だったので、実にショッキングなスタートである。

 しかし、何よりもショッキングだったのは、登場人物たちへの追い込みのかけ方は徹底しているのに、その徹底する理由が見えないことだった。出来事にしても道具にしても、解決もなく意味が語られることもない気持ち悪さの残留感が凄い。
 たぶん、箸休め的な意味で模倣犯役のROLLYが出てくるんだけれど、こちとらもはや笑えないところまで追い込まれていて、ぼーっと彼の歌を聴くほかなかった。

 歌と言えば、事件のキーやら強引な幕引きまでやってしまったアイドルグループ・デザート。懐かしのアイドルっぷりが半端ない。曲の雰囲気とかね。
 その作曲のほとんどが桃井はるこというのにびっくり。劇中挿入歌の「Mail Me」って、桃井はるこのデビューシングルだったのか。それでも、当時の電波系ソングの女王を捕まえてくるあたり、園子温監督のアンテナの感度が窺い知れて、興味深かった。

 というわけで、こちらまで気分的に追い詰められて、100分とは思えないほどの疲労感。
 それにしても、“OSはWindows95”な感じが、そこここに感じてしまう作品だった。それが時代を現しているとも言えるのだろうけれど。

 ただ、「あなたはあなたの関係者ですか?」の言葉が、妙な引っかかりをもって残留する。

家族なんて入れ替え可能だっつうの|『紀子の食卓


父と対立する17歳の紀子は家出し、上京する。やがて彼女は、あるインターネットサイトの掲示板で知り合ったクミコという女性と対面。クミコが運営する“レンタル家族“に加わるのだが……。(ドリパスより)

 『自殺サークル』のスピンアウトなるこの作品だが、むしろこちらの方が本作のような感じな重厚感。

 まず、地方の高校生としての紀子(吹石一恵)への共感。
 地元の子たちとは気分が全然合わない。でも、廃墟ドットコムでは、ハンドルネーム“ミツコ”を持つことで、別の自分になれて、気の合う子たちがいる。その子たちは都会にいる。東京にいる。そういった繋がりは、きっとインターネット草創期からある頃までは確実にあった。いや、実感がないだけで、今だってあるのかもしれない。
 紀子のユーモラスあるモノローグが、それを雄弁すぎるほど雄弁に語っていて、ぐっと引き込まれる。

 上野駅54ことクミコ(つぐみ)が主催するレンタル家族を見ながらふと思ったのは、舞城王太郎の短篇「みんな元気。」の「家族なんて入れ替え可能だっつうの」という台詞だ。特に理由もなく、ごく普通の一家の少女と空飛ぶ一家の少年が交換されてしまう際、少年が吐き捨てる、いかにもこの物語の象徴でございます的な台詞。
 レンタル家族というか家族サークル、“サークル”の在り方が、それぞれがそれぞれのキャラクタ/ロールをプレイしていくという点において、「家族なんて入れ替え可能だっつうの」という舞城からの言葉がしっくり……じゃなくて、ピコーン!となったわけだ。「あなたはあなたの関係者ですか?」も、自分をロールプレイできているかという問い掛けにも聞こえる。
 このへん、極めてゼロ年代的というか、当事者の問題として考えさせられた。

 またこの問題は、小島信夫抱擁家族』以来の父権の喪失というか、父親がもはや一つのロールでしかないことを炙り出しているようにも感じた。父親である徹三(光石研)は、娘の想定するロールプレイよりネガティブな醜態を晒してしまうあたり胸が痛む。

 それにしても、ユカ(吉高由里子)の最後の行動まで徹底してロールプレイしていて、心地よさを覚えるほどだった。例えそれがロールに囚われての行動だとしても、そこに覚悟が見えるからなのか。
 劇場を出て真っ暗だったが、確かに朝を感じたのはそのせいかもしれない。

自殺サークル [DVD]

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みんな元気。 (新潮文庫)

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抱擁家族 (講談社文芸文庫)

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