淡路恵子さんと“えんかん”

 淡路恵子さんが亡くなった。
 近年のバラエティのおかげでドラクエ好きの大女優のイメージが強いが、その前から自分が女優・淡路恵子を知っていたのは、地方の演劇鑑賞会のおかげである。

 2002年6月。その月の演劇鑑賞会の演目は、劇団NLT『毒薬と老嬢』だった。人口6万の都市の小さな“えんかん”に入って3回目の公演が、淡島千景淡路恵子のダブル主演の舞台。当時演劇一年生だった私は、過去の大女優たち(と言うのも伝聞情報である)がどんな物語を繰り広げるのかなあと思いながら、観劇に臨んだはずだ。
 はずだ、などと曖昧なことを言うのは、記憶が曖昧だからで、かと言ってつまらない舞台だったのかと言えば、げらげら笑わされたことだけ覚えている。あとは物販の宣伝をしていたことを妙に覚えている(「毒薬と老嬢」Tシャツを勧めるお二人がとってもチャーミングだった)。
 でも、その後しばらくこのブラックコメディーのことを思い描いていたのは、当時そのような習作を書いた記憶があるから、確かである。面白かったんだよな、間違いなく。

 演劇鑑賞会というのは、プロの演劇を安く観ようという会員制の組織である。戦後の新劇が、全国に自分たちの運動を広げようとする時に、全国の有志が非営利団体として組織したものである*1。会員だった父の活動を思い起こすに、制作や大道具等々でバックアップしていたはずだ。その分安く公演を呼ぶというスタイルは、長いところでは50年ほど続いているようだ。
 地方では、本当にプロの演劇を観ることは難しい。普通、企業が絡んだプロデュース公演であると、東京以外の公演は、せいぜい大阪に行くくらいで、なかなかそれ以外の都市に回れない。そこで、「みせたい」側と「みたい」側の有効な関係が生まれたのが、演劇鑑賞会ということであろう*2
 一方で新劇劇団の既得権益であるという話も聞こえてきたりする。50年経って硬直化しているのは間違いない。そして、地方は人口が減る一方、閉鎖に追い込まれる“えんかん”もあると、もう10年前から会報で訴えかけていた。今では更に深刻だろう。

 一度だけだけれど(それも青森で)生の舞台を観られたんだなあ。なんてことを噛みしめながら、淡島千景姉さんの元に飛んでいった、淡路恵子さんのことを想う夜である。

*1:http://www.enkan.org/enkan/anounce/shiryou1.pdf

*2:その運動には共産党が絡んでいるということを思い出して調べたが、ちょろっと調べただけでは見つけ出せなかった。そもそも、会員を勧誘するうえで、(発祥はそうであったとしても)観劇鑑賞会のWEB上では出しづらいということもあるのかもしれない。