♪工場、狂った町 ― 小山田浩子『工場』
祭りの晩
芥川賞は、小山田弘子「穴」(「新潮」9月号)。直木賞は、朝井かまて『恋歌』(講談社)と姫野カオルコ『昭和の犬』(幻冬舎)。
いつも“読まずに当てる”と称して一人遊びを繰り広げているが、今回は、芥川賞:◎なし・○山下、直木賞:◎伊東・○姫野ということで、直木賞の複勝を当てた。別にそれで何が起こるというわけではない。むしろ、今回は一人遊びではないので、今週末にコーヒーをおごる必要がある*1。
工場という、工場
昨年の夏、実家で小山田浩子『工場』を見つけて驚いた。自分はおいても父母弟妹揃って読書一家ではあるが、純文学嗜好の人間はいない。「書評にあったから」と母は話したが、「読みづらくて」と中途半端なところで放っている模様。ならば、と借りて夏休みに読んだ。
新潮新人賞の受賞作でもある「工場」は、転職活動中の女が“工場”に面接に来るところから始まる。他にも大学院生が地元の就職先として入ることが決まったのが工場であるという。その“工場”は、たいへん広く、ほとんど町のようなもので住居から商業施設から揃ってる。しかし、大変評判がよい“工場”は何を作っているかわからない。そして、工場には工場でしか見られない動物がいるらしい……。
などと始まると、「不条理小説か……やれやれ」と言いたくなりそうではあるが、ディテールが丁寧で割と滑稽なので、ゆっくり読んでいると工場見学のようでそれはそれで楽しい。実際、ゆっくり噛みしめるように読むのが好きな自分としては、いつ読書を再開しても、なかなかいいじゃん、って感じの小説だった。結末がある意味きれいすぎて、惜しくなるような迷路だった。
それでも、今回芥川賞で印をつけなかったのは、なんでだろう、と思う。
藤野可織*2に特に想起されるが、どこが幻想的なものをわかりやすく取り入れようとする傾向や、割と無鉄砲ぶりを発揮して効果を得ている傾向*3が、そろそろ強くなってきているように思うし、「半径数十メートルしか描いていない」とか言っていたゼロ年代からの別展開が始まってきている。
小山田浩子「工場」は、微視的視線と中視的視線が入り交じったような作品だったので、本当に満足度は低くなかったのだ。でも、ね。というところが、思い当たらない。その「でも、ね」感は、三崎亜記『となり町戦争』に感じたものに近いかもしれない。
その違和感は「ディスカス忌」や「いこぼれのむし」にも覚えた。相性がいいはずなのに、少し肩すかし。そんな作者にまだ惑わされている。
そして、淡々と151回へ。
候補者があがった時、「いとうせいこう、3回連続!」だけが話題にならないようなラインナップを期待したいです、とりあえず。例えば、加藤シゲアキでもいいじゃん(いいじゃん)。
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